日めくり雑語り帳

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『地獄の花園』感想 ヤンキー漫画について本気出して考えてみた(ネタバレ)

予告がけっこうサムくて苦手だな〜と思ってたんだけど、ちょっと違うぞというレビューを見たのと永野芽郁ちゃんがかわいいので一応見てみました。

ヤンキーOLたちは仕事のかたわら、ステゴロの喧嘩で会社のテッペンを目指す。社内で3つの派閥に分かれて抗争を繰り広げるが、ヤンキーとは無縁の普通のOLである直子(永野芽郁)は他人事として眺めていた。しかし、誰よりも強い蘭(広瀬アリス)が中途入社してきたことから、直子のOLライフは変化していく――みたいなあらすじ。

あらすじから分かるとおり、バカバカしい世界観のコントみたいな映画である。ヤンキー漫画の、喧嘩で成り上がって倒した相手とは仲間になるみたいなノリをOLの世界に持ち込んだわけですな。ヤンキーは派閥、OLも派閥、という発想みたい。バカリズム脚本だけあって、女子の日常を皮肉ったようなギャグでもある。
圧倒的な強さで会社を統一する正義のヤンキー・蘭はいかにもヤンキー漫画の主人公であり、喧嘩のできない親友ポジにいるのが直子。劇中にはいかにもヤンキー漫画っぽいイベントがたくさん展開し、主に直子のモノローグという形で実際に「いかにもヤンキー漫画っぽいナァ!( ゚д゚)」なんて直接言及される。親切設計すぎんかとは思うけど、コントとして誰にでもわかりやすく作られてるのだ。ヤンキー漫画をメタ的に捉えてるのね。例えるなら、ゾンビが出てきたのでショッピングモールに逃げ込んで「これゾンビ映画でよくあるやつ!」って思う、みたいな。

 直子はこれも親友ポジあるあるで、敵対する会社のヤンキーチームに連れ去られ人質にされる。直子を助けるため蘭はたった一人でアジトに乗り込んでくるが、ここから少し様子が変わる。
なんと蘭は、敵の頭と対決する前に立ちはだかる中ボス三人衆との決闘で、割とあっさり負けてしまうのである。
ヤンキー漫画なら、負けるにしてもせめてボスに負けるべきで、中ボスは瞬殺するはずなのだ。これはいったいどういうこと? と首をひねっていると、ごく普通のOLだったはずの直子が突然暴れだし、敵を全滅させてしまう。実は直子は喧嘩の天才で、普通のキラキラOLでありたくて実力を隠していたのだった。
ここが作中最大のひっくり返し。これまで「いかにもヤンキー漫画っぽい」が強調されていたのは、実は王道ヤンキー漫画ではない展開の前フリ。舐められがちな地味キャラが最強の戦士でした的なジャンルのお話だったのだ。チンピラ演技が似合う女優で固めた中に一人だけチンピラ感ゼロの永野芽郁を置いたキャスティングがここで活きる。
蘭は喧嘩が強いだけの凡人で、ろくブルやらクローズやらのキャラクターへの憧れから主人公っぽい振る舞いを演じていただけだった。直子の強さを目の当たりにした蘭はすっかり意気消沈、音信不通になってしまう。

ここから作品の雰囲気がガラッと変わるのは、直子の秘密が明かされたことで、映画の世界観に対する彼女のツッコミが入らなくなったことが大きい。「ヤンキー漫画あるある」というメタ的な描かれ方に「ヤンキー漫画あるあるを裏切る」という別角度のメタを追加したことで、観客と同じ視点の直子が観測者から物語の中心になり、世界は客観から主観に移る。「まるでヤンキー漫画」から「ヤンキー漫画そのもの」になる。王道から外れたことで逆にしっかりヤンキー漫画として成立するという不思議な現象。
その後もギャグはいっぱい出てくるが、世界観をイジるギャグではなくヤンキー漫画の作中に登場するギャグになる。レイヤーが変わるというか。うまく言語化できないな。

闇堕ちした蘭が修行して直子に決闘を挑むクライマックスはもう普通にヤンキー漫画として熱い展開。
この修業シーン、OLの業務が戦闘の訓練になるとかベスト・キッド的な、暮らしの中に修行ありみたいな感じだけど、師匠ポジのお年寄りがメチャ強いとことかはヤンキー漫画じゃなく能力バトル漫画パロディだなぁと思ったり。

 最後のオチがくだらないギャグだったのも、ヤンキー漫画の一エピソードをちょっとした笑いで締めるみたいなよくある作りで、確かにこの映画の世界観そのものに対する元も子もないツッコミではあるけれど、それで全部ひっくり返るようなものではないと感じた。みんなだいすき『HiGH&LOW THE MOVIE』の最後にYOUが「みんな喧嘩しすぎじゃなぁい?」って言うのと同じようなもん。

 てか、この映画の天敵がまさにハイローだと思った。
バカリズムは意識的にヤンキー漫画をメタろうとしてるけど、HIROさんは好きなものを好きなまま作品にしたら天然でメタっぽくなってたって感じだし。アクションの質はさすがにハイローに勝てないし……そう、こういう世界観コントはガチな雰囲気を作り上げるのが大事で、アクションはもっと頑張ってほしかった。いや頑張ってはいたけど目新しいものがないというか。まあこの映画見て「アクションの目新しさがほしい」みたいな感想を持つほど真剣にあれこれ考えるとは思ってなかったので、それだけ予想外に良作だったってことです(偉そう)。
永野芽郁のアクションまったく天才感なかったけど喧嘩慣れしてない感じがチャーミングでもあったね……。